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趣味のキャロル研究:基本文献紹介

※2020年4月5日改稿。以前の記事は趣味のキャロル研究:基本文献紹介(旧版)を参照ください。


大学での本格的な研究はともかくとして、あくまで在野の人間が趣味で研究・調査を行う場合、果たしてどの程度の文献を集めればよいか。「多々益々弁ず」というのは当然として、ある程度の目安は存在しているのではないか。ここでは、自分の経験の中から「アマチュア研究家」として揃えておきたい文献を紹介したいと思う。出来る限り入手しやすいものを心掛けたが、中には古書店で探さなければいけない文献もあることをお断りしておく。

テクスト

翻訳

翻訳の比較を行う場合なら、あらゆる翻訳を集める作業が必要となる。しかしキャロル研究という場合、翻訳は必ずしも多く必要であるとは思わない。ただし『アリス』以外の著作については、そもそも翻訳が一種類しかないものが多いので、その翻訳をテクストとする他ない。
『アリス』については、以下を基本文献として揃えておきたい。詳細な註釈がある、という意味で基本文献に推す。

Martin Gardnerによる註釈本の最新版であり、Gardnerの死後Mark Bursteinによって註が加えられ『不思議の国のアリス』150年記念の2015年に出された版の邦訳である。過去に邦訳が出ていた二種類の註釈本から、遙かに内容が充実しており、また、2020年4月時点で、新刊として購入できるのは、この版しかない。
『アリス』以外の主要な翻訳については『アリス』以外のキャロルの著作のページに翻訳を掲載している。

原書

テクストとしては一冊でキャロルの著作が多く読めるという点から

は是非揃えておきたい。ただし、2020年4月現在では絶版状態であり、古書での購入となる。また、この本でPhantasmagoriaとして掲載されている単行本は、1869年刊行の詩集ではなく、Rhyme? and Reason?から『スナーク狩り』を削除したもののことで、これは同書が再版時に題をPhantasmagoriaと改題したことによる。

Alice, SnarkについてはMartin Gardnerの詳細な註釈本があるので座右に置いておきたい。

特にThe Annotated 'Alice' The Definitive Editionはペーパーバックということで購入しやすい。Wasp in a wigの原文も収録されているので、貴重だ。Penguin ClassicsのThe Hunting of the SnarkThe Annotated 'Snark'の旧版がPenguin Classicsに収められたもの。ハードカヴァーではあるが、The Annotated 'The Hunting of the Snark' The Definitive Editionが、Gardnerの註としては最も新しく、かつ詳しい。

以下、上記Penguin版全集に収録されていない作品について、必要と思われるものを紹介したい。
Aliceのみを対象にしたい場合には、Alice's Adventures Under Groundが活字で収録されている

を揃えると便利である。ただし、Alice's Adventures Under Groundについてはキャロル手書きのものを見ることも必要と思われるので、

も揃えておきたい本ではある。これはキャロルの手稿本と訳がセットになっており、日本での入手が比較的容易だ。

また、Alice's Adventures Under Groundについては、大英図書館がオリジナル手稿本をオンラインで閲覧できるようにしている。

The Nursery 'Alice'については、2015年に『不思議の国のアリス』150年記念として、MacMillanから縮刷版が出ている。

1890年の第二版を底本にしており、印刷も美しいハードカヴァーだ。表紙の題名が元の本と違い金になっているなど、装丁については原著とは違う部分もあるが、中は縮刷版とはいえきちんとした復刻なので、手許に置くには良い本といえる。古書ではあるが、テクストの信用性から考えて

もお薦めである。このDover版はMacmillanから1890年に出た2版(1896年発行の値下げ版)をそのままペーパーバックのサイズにしたものなので、実質、Macmillanの版を持っているのと同じとなる。また、マーチン・ガードナーの解題がついているのもありがたい。

Rectory Umbrella, Mischmasch, Pillow Problems, A Tangled Tale, Symbolic Logic, Game of LogicについてもDover Booksから出ている。

伝記

翻訳された伝記では

が一冊本としてコンパクトにまとまっており、非常に有益な本であるが、現在絶版。古書店を探しても手に入れるべき本であろう。詳細な伝記としては

がある。これも絶版。座右に置いて決して損にならない本であるが、残念なことに原書にあった索引が日本語版では付いていない。これはハドスンの伝記も同様であるが、特にコーエンの伝記は大部のものなので、索引が必須と考えられる。場合によっては原書を一緒に購入すると便利かも知れない(Lewis Carroll: a Biography Morton N. Cohen, Vintage Books Amazon.co.jpで購入 )。ペーパーバックで出ている。
自分が翻訳に参加した本を紹介することになり、恐縮ではあるが、

が、キャロルの日記や手紙、関係者の回想といった一次資料からキャロル本人の実像や友人関係を詳細に記している。また、索引も完備している。

写真や画像が豊富であるという点からも、入手しやすく廉価であるという点からも、索引が完備してるという点からも

は是非揃えておきたい本だ。
また、厳密な意味では伝記と云い難いが、キャロルの生まれたダーズベリや育ったクロフト、リポン等の美しい写真と地図のあるところからも、実際にキャロルが暮らしたのがどんな所か解るという意味で

も、座右に置いて参考になる本である。年譜や巻末の参考文献等も充実している。2020年4月現在は絶版なので、古書を探す必要がある

書簡集

基本文献として、

がペーパーバックで出ている。2015年に『不思議の国のアリス』出版150年記念版が出たようだが、現役とは言いにくく、プレミアがついている。こまめにネット古書店を探せば、以前の版が手頃な値段で入手できると思われる。日本語で読めるものでは

がある。後者は伝記としても読めるようになっている。

書誌

キャロルが生前出版した本についての詳細な書誌として、次の一冊は必須といえる。ただ、現在絶版であり、古書店で入手する必要がある。

また、これも自分の作ったもので恐縮だが、

にキャロルの主要な著作と邦訳の書誌がある。本書刊行以降の追加書誌については《ルイス・キャロル書誌》(七つ森書館『ルイス・キャロル ハンドブック』2013)正誤・追記一覧に適宜記載している。

事典

手近なリファレンスとして、以下の2冊は手許に置いておくと便利。

特に後者は、やや記述にエラーも見られるもののキャロルに関連した人物も立項されており(Dictionary of National Biographyにも載っていない人物も掲載されている)、特に歴史上でのキャロルを調べる場合には便利な一冊。
なお、伝記の項で紹介した『ルイス・キャロルの実像』も、関連する人物やキャロルの著作についての索引があるので、事典的に使うことが可能だ。

ヴィクトリア朝関連書籍

キャロル研究の際にはヴィクトリア朝に関する知識がどうしても必要になる事が多い。当時の文物や習慣が解っていないととんでもない誤解をするおそれがある。以下の4冊は、ヴィクトリア朝を知る場合に事典的に使えて便利なガイドとなる。

『図説 ヴィクトリア朝百貨事典』は、当時の文物を図版を使って説明しており、「これは一体どんなものか」が直観的に解る、非常に便利な一冊といえる。『図説 英国レディの世界』は、当時の女性と子供の生活誌に焦点を当てており、『図説 ヴィクトリア朝百貨事典』同様、豊富な図版で直観的に理解できるようになっている。
『エマ ヴィクトリアンガイド』は、漫画『エマ』(森薫、エンターブレイン)の副読本であるが、使用人社会をはじめとした当時の社会階層の生活誌、水晶宮のような当時の観光スポットを詳細な(著者自身の手による)イラストとともに説明した、初心者に非常に便利なガイドとなっている。『図解 メイド』も、同じくヴィクトリア朝の時代背景と使用人を解説するガイド。各項目が見開きにまとめられ、理解しやすい。

その他

キャロルは1867年にロシア旅行をしているが、イギリスにはそれ以前よりツーリズムの文化があった。キャロルの旅行も、その文脈から捉えることが可能である。

上記書籍は、19世紀初頭(キャロル生誕直前)までのイギリスのツーリズムについて書かれた本である。時代的にはキャロルの時代よりやや前、馬車旅行の時代までではあるが、イギリスにおける「旅」の文化的文脈を知るには良い本といえる。

最新の研究や、特定の分野における研究書は枚挙に暇がない。上記文献をベースに自分の興味を持った部分、調べたい分野が決まれば、次に何を読むかは自然と解ってくるだろう。

※本稿の文献については

より、アマチュア研究に便利と思われるものを抜粋して作成し、ヴィクトリア朝関連書籍等に関して新たに追加した。


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