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第八話(最終話)

 すべてが静まりかえっていた 1 。スロッグドッド男爵は祖先の間にある国主の椅子に座っていた。だがその表情はいつものように平静なものではなかった。不快で不穏な空気が流れているのは男爵の気持ちは全く休まっていないからだ。何のために? 広間にはびっしりと立錐の余地もないほど、まるで生きた大海の如く七千人の人間が座っていた。眼は男爵に注がれ、大きな期待に息を飲む。そして男爵は心の、心の底で感じていた。不自然に微笑んで不安を押し隠そうとしたが無駄だった。何か恐ろしいことが起きようとしている。読者よ! 勇気がないなら、ページをめくってはいけない!
 男爵の椅子の前にテーブルがある。上には何があるか? 震える群衆は知っている。顔は蒼白になり膝が震えながらもじっと眺め、眺めている間も身を縮ませている。醜い、不格好な、身の毛もよだつような、おぞましい物がそこにはいた。大きな眠そうな眼に膨れた頬。魔法の蝦蟇だ!
 皆が怖れ、嫌悪した、ただ一人、男爵を除いて。男爵は陰鬱な瞑想のあと勇気を奮い起こし、足を上げて蝦蟇を洒落で 2 蹴ってみようとした。蝦蟇は全く気づいてもいない。男爵は怖れて蹴られない。そう、強い恐怖に心を奪われたのだ。そして眉を曇らせ不安に駆られ考え込んだ。
 テーブルの下では群衆が震えてうずくまっている。絶望的で這いつくばり、怖れて人間らしい振る舞いすらできない。誰も目をやらず、誰も哀れまない。
 すると魔術師が呼ばわった。「私の告発する 3 のは、もし実際にそうであるなら――ブロフスキだ!」その言葉が出るや、恐怖に満ちた群衆の前で縮んでいた姿が起きあがり、よく知られた禿鷹のような顔が現れた。何か言おうと口を開けたが、蒼白の震えた唇から音が出てこない……重々しい静寂に包まれた……魔術師は運命の杖を振り上げ、戦慄すべき抑揚で死の呪文を唱えた。「臆病なる放浪者よ! 道を誤りし堕落者よ! 受けるべき報いを受けよ!」……静かにブロフスキは大地へと沈み……暫くの間真っ暗になり……また明るくなり見えるようになるや……マッシュポテトの塊 4 ……闇を通して丸い形がぼんやりと現れ、一度吠えるのが聞こえ、しんと静まった。読者よ、これでおしまいだ。

1.この回で物語の謎がすべて明らかになる、ことを望む。
2.実際、洒落に過ぎないのだが、この時、男爵は陰鬱だったので。洒落で楽しもうというような気持ちにはなっていなかった。
3.「何について?」と問われるかも知れないが、悔しいかな作者は答えを用意していない。
4.多くの読者が作者にむなしくも質問を寄せている。「何をやったのか?」と。作者も知らない。