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アリスの服の色


クリックで拡大画面 アリスの着ている服の色というと、どの色を想像するだろうか? 大部分の人は青と答えるのではないだろうか。ディズニーのアニメをはじめ、コミケのコスプレに至るまで、アリスといえば青の衣装が定番になっている。だが、キャロルの想像したアリスの衣装は本当に青だったのか?
 ここに、キャロル生前の著作で、なおかつアリスの衣装に色の着いているものがある。そう、『子供部屋のアリス』(1890年)だ。本を開いてみる。すると、驚いたことにアリスの衣装は黄色なのだ。この彩色はテニエル自身によるものであることが判っている。少なくともテニエルはアリスの服を黄色と考えていたことが判る。そして、絵の配置まで神経を遣うキャロルである以上、この彩色はキャロルの意向を受けたものと考えて間違いではないだろう。つまり、キャロルが自分の本の中で承認したアリスの服の色は黄色だったことになる。
 では、なぜ後のアリスは、青い服がトレードマークのようになってしまったのだろうか。この答えと思われるものが『アリスとテニエル』(M.ハンチャー/石毛雅章訳 東京図書)の中に紹介されている。その部分を引用すると、

 テニエルの死ぬ3年前の1911年に、ロンドンのマクミラン社は、テニエルの挿絵16点を全ページ大の図版に描き直して彩色したものを含む両『アリス』本の合本を刊行した。
<中略>
たとえば、グリフォンは1890年版では緑と赤であったが1911年版では紫と赤、そして茶色になっている。アリスのドレスは黄色から青みがかったスミレ色に変わっている。

 つまり、今考えられている「アリスの服=青」というのは、この1911年版に端を発すると考えられる。その後、ディズニーのアニメーションで鮮やかな青色がアリスの服に採用されたのはご承知の通り。おそらくこの段階でアリスの服の色が青に定着したのではないだろうか。

(追記 1998.11.12)
『愛蔵版 不思議の国のアリス』(岩波書店)の巻末に次の記載があった。

 ……今度の愛蔵版の特色は、もともとは黒だけで刷られていたそれらの絵の全部に、色がつけられているということです。そのうち8枚の彩色を行ったのは、ヴィクトリア時代の画家ハリー・G・シーカー(1873−1954)ですが、それらが最初に出版されたのは1911年(テニエルの死の3年前)で、これによって、うす紫の服に縞模様の靴下というアリスのイメージが定着することになったのでした。……

 ほぼ、ここでの考察通りであった。

(追記 2002.3.3)
 門馬義幸「ルイス・キャロルよもやま話〔その2〕」(日本ルイス・キャロル協会会報『MISCHMASCH』(5) 3-7, 2001)では、さらに詳細な経緯が報告されている。それによると、1903年にMacmillanが発売した『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』のThe little folks' editionで、テニエルの模写のアリスの服が青で彩色されているとのこと。Macmillan発行の『アリス』で青い服のアリスが登場したのは、これが最初の例である。また、キャロルの生前、1893年にアメリカの出版社Thomas Cromwell社から出版された『不思議の国のアリス』でお姉さんのそばに座っているアリスのイラストで、服が青い色で彩色されているとのこと(但し、この本については、キャロル本人はおそらく見ていないであろうとのことであった)。
 そして、本国イギリスでは、キャロルの生前、1892年にキャロルの承認のもとにアリスのビスケット缶が作られたが、ここでのアリスこそテニエルのイラストに青い服の彩色、という今でも見られる色であった。生前においても、キャロル自身「青い服のアリス」を目にし、承認していたことになる。

*画像に使用した本
Nursery 'Alice' 第2版


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